経団連が令和7年11月に実施した調査によると、現在裁量労働制が適用されていないホワイトカラー労働者のうち、3割以上(33.0%)が制度の適用を希望していることが明らかになりました。対象は、全国の23歳~60歳の管理職以外の正社員で、企画職や専門・技術職など1,319人の回答を分析しています。
一方、すでに裁量労働制が適用されている労働者からは、
- 柔軟な働き方ができる点(67.4%)
- 業務を通じて知識・経験・スキルを高められる点(32.6%)
といったメリットを評価する声が多く、制度が働き方の満足度や自己成長に寄与している様子がうかがえます。
裁量労働制は、高度な専門性や自律的な業務遂行が求められる職種において、働き方の選択肢を広げる制度として、一定のニーズがあることが確認できます。一方で、導入にあたっては、
- 対象業務・対象者の適正な選定
- 労使協定や制度運用の適正性
- 長時間労働や健康確保措置への十分な配慮
が不可欠です。
今回の経団連調査結果には一定の示唆がある一方で、読み取る際に注意すべき問題点・限界がいくつかあります。主な論点を整理します。
①「希望=適用が望ましい」とは直結しない点
本調査では、『裁量労働制が未適用の労働者の33.0%が「適用を希望」』と回答していますが、
- 「どのような業務内容を想定しているのか」
- 「裁量労働制の法的仕組みやリスクをどの程度理解した上での希望か」
が明らかではありません。
裁量労働制は、実労働時間と賃金が直結しない制度であり、運用次第では、長時間労働の固定化や成果プレッシャーの増大につながる可能性があります。
「柔軟に働けそう」というイメージ先行の希望である可能性があり、制度理解の深度が担保されていない点は大きな課題です。
② サンプルが限定的で一般化に注意が必要
また、調査対象は、管理職を除く正社員、企画職・専門職・技術職などのホワイトカラー職に限定されています。そのため、一般事務職、営業職、中小企業の多能工的業務など、裁量労働制の適用が法的・実務的に難しい層の実態は反映されていません。
企業全体の人事施策として拡大解釈すると、現場との乖離が生じる恐れがあります。
③ 既適用者の「メリット評価」に潜むバイアス
裁量労働制が適用されている労働者の多くが、柔軟な働き方・スキル向上
をメリットとして挙げていますが、不満を持つ人ほど調査に答えにくい、制度を前提とした働き方に適応した人が残っているといったサバイバー・バイアスの可能性があります。
ネガティブな影響(疲労、私生活への影響、評価の不透明さ)が十分に表面化していない可能性があります。
④ 健康管理・労災リスクとの関係が十分に検証されていない
裁量労働制は、過去の行政・司法の場でも、過重労働・メンタル不調・労災認定との関係が問題となってきた制度です。
しかし今回の調査では、健康影響・長時間労働の実態・ストレス要因といった安全衛生面の検証が行われていません。
企業にとって重要な労災・メンタルヘルスリスクの評価が欠けている点は大きな問題点です。
⑤ 制度運用の「難しさ」が十分に考慮されていない
裁量労働制は、対象業務の厳格な限定があり、労使協定の締結・届出・健康確保措置の実施・記録など、運用負荷が非常に高い制度です。
調査では「希望」や「メリット」に焦点が当たっていますが、管理コスト・不適正運用による行政指導・是正勧告・紛争リスクといった企業側の実務的負担が考慮されていない点も課題といえます。
まとめ
今回の調査は、裁量労働制に一定のニーズが存在することを示した点では有意義ですが、「希望がある=導入を進めるべき」と短絡的に結論づけるのは危険です。
企業としては、人材確保・定着や生産性向上の観点から、裁量労働制を含めた多様な働き方の整備を検討する余地がある一方、制度の誤った運用が労務リスクにつながる点にも注意が必要です。
- 業務実態に制度が適合しているか
- 健康確保措置を含めた運用体制が整っているか
- 労働者への十分な説明と合意があるか
上記内容を慎重に検討し、制度導入ありきではなく、「適合性」と「安全性」を最優先に判断することが不可欠です。
裁量労働制は「柔軟な働き方の万能薬」ではなく、適切に使ってこそ価値を発揮する高度な制度である点を、企業・労働者双方が正しく認識する必要があります。
導入や見直しの際は、専門家である社労士の助言を得ながら、実態に即した制度設計を行うことが重要といえるでしょう
