― 腎機能低下の早期把握を目的とした制度見直しの動き ―
1.検討会報告書の公表と制度改正の方向性
労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会は、令和7年12月17日、一般健康診断の検査項目に血清クレアチニン検査を追加することが適当とする報告書を大筋で取りまとめました。
これを受け、厚生労働省は今後、労働政策審議会(労政審)に対し、労働安全衛生規則の改正を諮問する方針を示しています。
正式な改正時期は未定ですが、制度改正に向けた流れが明確になったといえます。
2.現行制度における一般健康診断の位置付け
事業者が実施すべき一般健康診断(定期健康診断)は、労働安全衛生法第66条に基づき義務付けられています。
具体的な検査項目については、労働安全衛生規則第44条において定められており、現在の主な検査項目には以下が含まれています。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力
- 血圧
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖および蛋白)
- 心電図検査
今回の見直しは、この安衛則第44条に規定される検査項目の追加を想定したものです。
3.血清クレアチニン検査が追加される背景
血清クレアチニン検査は、腎臓のろ過機能(腎機能)を評価する指標として、医療現場では広く用いられています。
検討会報告書では、次のような点が指摘されています。
- 現行の健診項目である
- 尿蛋白検査
- 血圧検査
- 血糖検査
だけでは、初期段階の腎機能低下を必ずしも把握できない
- 腎機能障害は自覚症状が乏しく、気付かないまま進行するリスクが高い
- 血清クレアチニン検査を追加することで、慢性腎臓病(CKD)等の早期発見・重症化予防が期待できる
こうした医学的・予防的観点から、検査項目追加が妥当と判断されています。
4.他の検査項目追加は見送り
今回の検討会では、血清クレアチニン検査のほかに、
- 眼底検査
- 骨粗鬆症検査
などの追加についても検討が行われましたが、これらの検査項目の追加は見送られる結論となっています。
5.事業主・人事労務担当者が押さえるべき実務ポイント
今回の報告書は現時点では「制度改正前」の段階ですが、以下の点は今後の実務に影響を及ぼす可能性があります。
- 健康診断委託先(健診機関)の対応可否
- 健診費用の増加の有無
- 有所見者に対する医師の意見聴取(安衛法第66条の4)や就業上の措置の検討
- 腎機能低下が認められた場合の就業配慮や保健指導との連携
制度改正が正式決定した場合、就業上の措置や事後措置の運用整理が重要になります。
6.社労士としての視点
健康診断の検査項目追加は、単なる「検査の増加」ではなく、
事業主の健康配慮義務を具体化する動きと捉える必要があります。
特に、
- 高齢労働者の増加
- 生活習慣病と関連する腎疾患リスクの上昇
を踏まえると、今後は健診結果を踏まえた就業管理の重要性が一層高まると考えられます。
正式な安衛則改正の動向を注視しつつ、早めの情報収集と社内体制の確認が望まれます。
