―精神障害は「女性」「医療・福祉」で急増。職場のメンタルヘルス管理が重要課題に―
厚生労働省が公表した「令和7年版過労死等防止対策白書」により、近年の過労死・メンタルヘルス労災の傾向が明確になりました。
企業として、職場環境改善・安全衛生体制の見直しが強く求められる内容となっています。
■ 1. 労災請求の主な傾向
● 脳・心臓疾患(いわゆる過労死・過労発症)
- コロナ禍で一時減少したものの、令和5年度に大幅増加(803件→1,023件)
- 令和6年度も1,030件と高止まり
労働時間負荷、業務量の増加などによる健康リスクが依然高い状態です。
■ 2. 精神障害の労災請求が急増(過去最多)
- 令和5年度:2,683件→3,575件
- 令和6年度:3,780件(過去最高)
特に増えているのは 自殺以外の精神障害事案 で、職場でのストレス反応が強く表れていることが分かります。
■ 3. 顕著に増えている層
白書では、以下の層で増加が際立つと指摘されています。
◎(1)女性労働者
- 令和元年度に男性を上回って以降、増加が続く
- 令和6年度の請求件数(自殺以外)
- 男性:1,648件
- 女性:1,930件
→ 女性活躍推進の流れの中で、負担増や職場環境とのミスマッチが影響している可能性。
◎(2)医療・福祉業界
- 令和6年度の精神障害(自殺以外)
→ 969件(5年前の2倍以上)
高い業務負荷、人手不足、感情労働の多さが大きな要因と考えられます。
■ 4. 労災支給の原因分析:最も多いのは「対人関係」
精神障害の支給決定における主な原因は以下の通り。
● 対人関係のトラブルが圧倒的に多い
- 令和5年度:972件
- 令和6年度:1,519件(大幅増)
内訳では、
「上司とのトラブル」が6割以上 を占めています。
● パワハラ関連も増加傾向
職場のコミュニケーション、ハラスメント対策が企業リスクに直結している状況です。
■ 企業が今やるべき対策
以下は、今回の白書を踏まえて企業が優先的に取り組むべきポイントです。
① 管理職のマネジメント教育の強化(最重要)
- パワハラ防止法の徹底
- 指導方法・関わり方・対話力の向上
- 面談・フィードバックの適正化
上司とのトラブルが6割以上というデータは、管理職教育の重要性を明確に示しています。
② メンタルヘルス対策の実効性を高める
- ストレスチェックの活用(集団分析含む)
- 高ストレス者への産業医フォロー
- 早期相談体制(人事・社外窓口)
特に女性のメンタル不調増加に対応した制度の整備が必要です。
③ 医療・福祉業界など負荷の高い部署への重点対策
- 人員配置の見直し
- 業務量の見える化
- 交代制・シフトの適正管理
- 感情労働負担を軽減する仕組みの検討
④ 過重労働の管理を徹底する
- 時間外労働の適正管理
- 36協定の実態に合った運用
- 業務量の調整、残業の分散
脳・心臓疾患の労災が再び増加しているため、
長時間労働対策は依然として重要課題です。
■ まとめ
令和7年版白書は、
「精神障害」「女性」「医療・福祉」「対人トラブル・パワハラ」
というキーワードが顕著です。
企業には、
- 管理職の対応力向上、
- 職場のコミュニケーション改善、
- 労働時間管理、
- メンタルヘルス体制強化
など、日常的な職場環境改善に取り組むことが求められています。
【社労士コメント】
令和7年版白書では、精神障害の労災請求が過去最多となり、特に「女性」や「医療・福祉分野」での増加が顕著でした。要因の中心が「上司とのトラブル」や「パワハラ」などの対人関係である点は、企業にとって重大なリスクであり、管理職のマネジメント能力が職場の安全衛生水準を大きく左右していることを示しています。
企業としては、単に法令遵守をするだけでなく、管理職教育やコミュニケーション改善、ストレスチェックの活用、業務量の適正化など、職場の“日常”に根付く予防対策を強化することが極めて重要です。今後、精神障害労災の認定基準がさらに明確化・厳格化される流れも予想されるため、早期の環境整備と実効性あるメンタルヘルス対策が企業防衛の鍵となります。
