同一労働同一賃金

法改正は見送り、説明義務の強化で是正へ

不合理な待遇差解消に向けた実務対応が一層重要に

厚生労働省は令和7年12月11日、同一労働同一賃金に関する法制見直しの報告書案を公表しました。
今回の見直しでは、注目されていた立証責任の法的枠組みの変更について労使の意見が一致せず、法律改正は行わない方針が確認されています。

一方で、不合理な待遇差の是正に向け、説明義務の改善や労使間コミュニケーションの促進を柱とする、省令・指針等の見直しが示されました。
今後は「法改正がない=対応不要」ではなく、実務運用の質が問われる局面に入ったといえます。


1.同一労働同一賃金の現行法制度の位置づけ

同一労働同一賃金は、以下の法律を根拠に運用されています。

  • パートタイム・有期雇用労働法
    (第8条:不合理な待遇差の禁止、第14条:説明義務)
  • 労働者派遣法
    (第30条の3、第30条の4 等)

これらの法律では、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」を踏まえ、正社員と非正規雇用労働者との待遇差が不合理であってはならないとされています。


2.立証責任の見直しは見送りに

裁判等で待遇差の不合理性が争われる場合、現行制度では労働者側が不合理性を立証する必要があります。

審議の中では、使用者が合理性を立証できなければ違法とする枠組みへの転換を求める意見もありましたが、最終的に合意には至らず、法的枠組みの変更は見送られました

その代わりに、「説明を受ける機会そのものを拡充する」ことで、是正を図る方向性が示されています。


3.待遇差の説明義務を労働条件明示で強化

(1)説明を求めたことがある労働者はわずか8%

厚労省の実態調査では、正社員との待遇差について説明を求めたことがある非正規雇用労働者は8.0%にとどまっています。

この背景には、説明を求められることを知らない、求めづらい雰囲気があるといった課題があるとされています。


(2)労働条件明示事項への追加

そこで報告書案では、パート・有期雇用労働者、派遣労働者の雇い入れ時の労働条件明示事項に、「正社員との待遇差の内容や理由について、説明を求めることができる旨」を追加することが提起されました。
これは、労働基準法第15条および関連省令(労働条件明示規則)の見直しを通じて対応される見込みです。


(3)求めがなくても「分かりやすい説明」を

さらに、労働者から説明を求められていない場合であっても、契約更新時などに「待遇差の内容・理由が分かる資料を交付」「説明を求められることを周知」する対応が望ましい取組として、指針等に明記される予定です。


4.正社員転換制度と労使コミュニケーション

(1)意見聴取の実効性確保

就業規則の作成・変更時に、パートタイム・有期雇用労働者や派遣労働者の意見を聴取する努力義務について、過半数代表者が円滑に役割を果たせるよう、使用者が必要な配慮を行うことが指針等で示される見込みです。


(2)正社員転換制度は「意向確認」が重要に

正社員転換推進措置については、「転換制度だけでなく複数の措置を講じること」「面談等で労働者の意向を確認しその意向に配慮すること」が求められる方向性が示されています。

形式的な制度整備ではなく、実質的な運用が問われます。


5.派遣労働者の待遇改善と指針見直し

(1)労使協定方式の適正運用

派遣労働者の待遇決定は、約9割が労使協定方式(派遣法第30条の4)によっています。

今後は、一般賃金水準を遵守した上で経済・物価・賃金動向を踏まえ十分な労使協議を行うことが指針に明記されます。

一般賃金水準が下がった場合でも、直前の協定額を基礎に協議することが望ましいとされました。


(2)周知義務と派遣料金交渉

労使協定の締結・改定時、労働者の雇い入れ時には、協定内容を書面や電子メール等で周知することが求められます。

また、派遣先が派遣料金交渉に一切応じないことは、派遣法の趣旨に反する旨が、指針で明確化される予定です。


6.企業に求められる実務対応

今回の見直しは法改正こそありませんが、企業には次の対応が強く求められます。

  • 正社員と非正規雇用労働者の待遇差の整理・言語化
  • 説明資料(比較表・理由書等)の整備
  • 労働条件通知書・雇用契約書の見直し
  • 正社員転換制度の実効性確保
  • 派遣契約・労使協定内容の再点検

説明できない待遇差は、リスクそのものとなる時代です。

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