健康保険の被扶養者認定における年間収入の算定方法が見直しへ

時間外労働による賃金は年間収入に含めない方向に(令和8年4月1日適用)―

厚生労働省は、令和8年4月1日から、健康保険の被扶養者認定における「年間収入」の算定対象を見直す方針を示しました。これにより、労働契約上あらかじめ定められていない時間外労働(残業)等に伴う賃金は、被扶養者認定の年間収入に含めない扱いへと変更されます。

本改正の背景には、現行制度では「残業が増えて基準額(130万円など)を一時的に超えると扶養から外れる可能性がある」ことが就業調整を生む要因となっていた点が指摘されています。今回の見直しにより、予見不可能な残業により収入が増加した場合でも、社会通念上妥当な範囲であれば扶養認定が取り消されないことが明確化されました。


見直しの主なポイント

年間収入に含めない対象

以下の収入は、労働契約に基づき当初から見込むことができないため、算定から除外されます。

  • 時間外労働に係る割増賃金
  • 臨時的な手当(契約上明示のないもの)

これにより、
「月の残業が増えたために年収が130万円を超えてしまった」
というケースでも、自動的に扶養から外れることはなくなります。


扶養認定の判断方法も変更

被扶養者の認定は、以下の資料をもとに行われます。

  • 事業主が交付する労働条件通知書など、労働契約内容がわかる書類
  • 本人による「給与収入のみである」旨の申立書

また、次のケースでは再確認が必要となります:

  • 労働契約の更新
  • 労働条件(勤務時間・給与等)の変更

その際には、変更内容が確認できる書類の提出が求められます。


給与収入以外(年金・事業収入等)がある場合は変更なし

今回の見直しは「給与収入」に限定されており、
年金収入、事業所得、不動産所得等がある場合の扱いは従来どおりです。


今回の見直しは、企業が従業員へ情報提供すべき重要な改正です。特にパート社員を多く抱える企業では、「扶養の壁」を理由とした労働時間調整の相談が多く寄せられますが、残業による一時的な収入増で扶養が外れるリスクが軽減されることで、従業員の不安緩和や柔軟な働き方の実現につながることが期待されます。

企業としては、

  • 労働条件通知書の適切な交付・更新
  • 扶養確認の運用ルール整備
  • 従業員への分かりやすい説明

がますます重要となります。必要に応じて社労士へご相談いただくことで、適正な運用と従業員の不安解消を同時に図ることができます。